第67回_風俗雑誌とマンガ家_その11

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「この原作者の方って、、、」

 

昭和をリアルタイムで過ごした世代であればもちろんのこと、若い世代でも少しマンガに詳しい方であれば誰もが知る原作者だ。今は亡きこの原作者の残した野球漫画、ボクシング漫画、格闘技マンガは根強い人気があり、アニメ化だけでなく映画化、パチンコ台にも採用されている。

 

「実はこんなものも残っていまして」

 

タックル松田さんは古めかしい茶封筒を僕に渡してくれた。そこには10枚ほどの便箋が入れられており、僕は震える手でそれを広げるとクセの強い文字で何やらストーリーが書かれている。

 

「これが原作のアイデアなんですか?」

 

「ええ、この方はこういったやり方でストーリーを伝えてくれるんですよ。クセが強い字を書かれる方なんで、解読するのが大変だったんですけどね」

 

このビッグな原作者は数多くの伝説的なマンガを世に残したが、残念なことにすべての作品をヒットさせたわけでは無い。過去にこの原作者の作品を網羅したファンサイトを見たことがあるが、その多くは数巻で打ち切りになっていた。そして、悲しいことにタックル松田さんのボクシングマンガも3巻で打ち切りになっていたのだ。

 

「僕はヒット作もありませんし苦労ばかりなんですけど、この経験があるからやって来られたんですよね」

 

コンビニや書店へ行けば多くの風俗雑誌が並んでおり、その中には必ずソープランドやデリヘルの体験マンガが掲載されているもの。その多くは一世代前の絵柄の作品が多く、どこか垢抜けないイメージばかりだ。しかし、そういった作品を手がけるマンガ家の中には、タックル松田さんのような過去を持っている場合もある。読者の中には当時の作品をリアルタイムで読んでいた男性もいることだろう。知らず知らずのうちに思いがけない形で再会しているケースもあるのだ。

 

タックル松田さんの原稿を受け取ると、僕は最後の挨拶をして編集部に戻ることにした。

 

「僕、あのブラックバスのイラストが本当に好きだったんです。いつか釣りマンガを描いてください!」

 

「ははは、ありがとうございます!これはぜったいに諦めませんから」

 

編集部に戻って入稿作業を終えると、手の空いていた編集部のスタッフと一緒に喫煙所へ移動して一服をする僕。

 

「あのタックル松田さん、実は凄いマンガ家だったんだよ」

 

「へえ、あの人は何者なの?」

 

僕はタックル松田さんのキャリアを説明すると、編集部の中でもマンガ好きで知られるそのスタッフは目を丸くして驚いていた。

 

続く