第65回_風俗雑誌とマンガ家_その9

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一般的なマンガ雑誌であれば綿密な打ち合わせをした上で原稿を仕上げ、編集者がマンガ家の自宅まで取りに行くことが当然なのだろう。しかし、僕が在籍しているのは単なる風俗雑誌の編集部で、申し訳ないがマンガ雑誌編集部のシステムは分からない。僕の編集部ではマンガは宅配便やバイク便で届けられる。そのため、はっきり言ってマンガ家に対する扱いは雑と言えるだろう。マンガ家の自宅まで原稿を取りに行くことはこれが始めてだ。

 

タックル松田さんの自宅は多摩地区にあるため、編集部から1時間ちょっと。少し面倒な距離ではあるが原稿を間に合わせるには仕方が無い。僕は約束の日になると電車に乗ってタックル松田さんの自宅を目指した。

 

都会の街並みが次第にのどかな風景に変わったころ、ようやく最寄り駅に到着。そこからは地図を頼りにタックル松田さんの自宅を探す。小さな商店街を抜けてたどり着いた場所は閑静な住宅街。まさかこのような場所でソープランドの体験マンガが描かれているとは誰も思わないだろう。そして、おそらく本人の自宅と思われる一軒家を発見。表札は出されておらず、自宅の1階部分はガレージになっている。階段を上がって呼び鈴をプッシュ。

 

そう言えばこれまでに何人ものマンガ家と仕事をしているが、実際に顔を見たことがあるのは数人で、軽く挨拶をした程度。自宅にまで行ったことのあるマンガ家はいない。僕の想像するタックル松田さんは50代で細身のイメージだが、果たして本人はどのようなタイプなのだろう。

 

ドアがガチャリと開くとメガネをかけた50代の細身の女性の顔が見える。きっとこの女性が電話で対応してくれた奥さんだろう。

 

「ホシノですけれども、タックル松田さんのお宅でよろしいでしょうか」

 

「はい。わざわざ遠いところまでありがとうございます。お茶を出しますので上がってください」

 

一般的な50代女性よりもシワの多い顔立ちで、優しい表情を浮かべる奥さん。

 

通されたのは6畳ほどの茶の間。どこか落ち着く雰囲気があり、親戚の家へ遊びに行ったような気分だ。奥さんがお茶を入れていると奥から足音が聞こえる。そこにやって来たのは原稿を持った50代の細身の男性。

 

「顔を合わせるのは始めてですね。タックル松田です。いや~、なんとか間に合いましたよ。わざわざ申し訳ありません]

 

「ありがとうございます!助かりましたよ」

 

原稿をチェックすると発注どおりの内容となっており、これなら十分に間に合わせることが出来る。ホッとしたところで、このままトンボ返りするのは無愛想。お茶をいただきながら軽く世間話をすることに。

 

続く