第64回_風俗雑誌とマンガ家_その8

更新

いくらタックル松田さんの描くブラックバスに惚れ込んだとしても、それを理由にデジタル原稿を断ることは出来ない。いくら編集者といえども、僕はマンガの素人。内容に注文をつけることは出来ても、仕事道具にまで意見をすることはプロに対して失礼だ。

 

そして、何よりタックル松田さんにとって風俗マンガはメインの仕事では無いだろう。少しでも効率良く風俗マンガの仕事を終らせるのであれば、デジタル化は賢明なチョイスと言える。

 

タックル松田さんのパソコン導入については、ポジティブに捉えるしか無いだろう。何より50歳を過ぎているにも関わらず、新しい技術を貪欲に取り入れる姿勢は尊敬出来る。これまで積み上げた経験に対して根拠の無い自信を持つプロは多い。そして、彼らは経験を言い訳にして新しい技術を頭から否定するのだ。しかし、タックル松田さんはどうだろう。新しい技術にチャレンジをする姿勢を持った本当のプロと言えるのではないか。そう自分に言い聞かせると、僕は10日後の締め切りを楽しみに待つことにした。

 

今回タックル松田さんに依頼したのは吉原のソープランドの体験マンガだが、それ以外にも僕はソープランドの紹介記事を作らなければならない。ソープランドはプレイ料金によって格安店、大衆店、高級店と3つにランク分けがされているが、今回はプレイ料金3万円から5万円の大衆店が中心。

 

僕は1週間でグラビアページやテキストを仕上げ、残すは体験マンガのみとなった。タックル松田さんの締め切りは残り3日だがまだ連絡は無い。きっと今ごろはパソコンで仕上げていることだろう。しかし、不慣れなデジタルに挑戦していることで悪い結果にならなければ良いのだが。

 

すると突然編集部の電話が鳴り、手の空いていたスタッフが電話に出た。

 

「お世話になっております。はい、少々お待ち下さい」

 

保留ボタンを押して僕に受話器を渡すスタッフ。

 

「タックル松田さんからだよ」

 

これは嫌な予感。

 

「はい、もしもし」

 

「タックル松田ですけれども、実はパソコンの具合が悪くなっちゃいまして」

 

「えっ!?本当ですか!?」

 

「はい、それで慌てて手描きで描いているんですけど、締め切りギリギリになっちゃうんですよ。それで、出来れば原稿を取りに来てもらえると助かるんですが、、、」

 

幸いなことにスケジュールは比較的穏やかだ。

 

「分かりました。それなら締め切りまで3日ありますので、3日後にお伺いしますね」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

相当追い込まれているのだろう。これまででは考えられないほど早口になるタックル松田さん。

 

続く