第63回_風俗雑誌とマンガ家_その7

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「はあ、なるほど。デリヘルと違ってソープランドは描写が難しいんですね」

 

電話のタックル松田さんは穏やかではあるが、どこか弱々しい口調だ。しかし、マンガ家とは非常にクセのある人物が多く、タックル松田さんのようなタイプは珍しくない。

 

「ええ、ちょっと描写の部分だけ気を遣っていただけると助かります」

 

「分かりました。あ、それとですね、これはそれほど関係の無い話なんですけど、少しお時間よろしいですか?」

 

「は、はい、なんでしょうか?」

 

これまでの僕とタックル松田さんの関係は、電話口で仕事内容を伝えるだけというドライなもの。タックル松田さんは会話が苦手なタイプだろう、と勝手に思い込んでいたこともあって僕の方から積極的に雑談をすることは無かったのだ。しかし、予想外の展開で僕は思わず驚いてしまった。

 

「今までは生原稿で仕事をしていたんですけど、実は半年ほど前にパソコンを買いましてね」

 

「いよいよ松田さんもデジタル原稿ですか?」

 

「はい。ずっとパソコンの勉強をしていまして、なんとか仕事として使えそうなんですよ」

 

「最近はデジタル原稿の方が増えていますからね」

 

「私なんて50歳を超えていますからね。新しいことにチャレンジすることは大変なんですけど、以前から興味はあったんですよ」

 

これまでは弱々しい口調だったタックル松田さんだったが、どこか自信ありげな様子だ。

 

「編集者さんとしては、生原稿とデジタル原稿のどちらが楽なんですか?」

 

「デジタルの方が扱いは楽ですよね。データを送るだけですし、生原稿のように気を遣って管理する必要もありませんし」

 

「やっぱりそうですよね!パソコンを勉強した甲斐がありましたよ!」

 

ここで初めてタックル松田さんの力強い声を耳にした。

 

「それでしたら、今回の原稿からデジタルということですか?」

 

「ええ、そうですね。原稿はメールで送信するのでよろしくお願いします」

 

デジタル原稿は編集者にとってもメリットは多いが、マンガ家にとってもメリットは多い。やはりデジタル原稿の手軽さをマスターしてしまったら、生原稿に戻ることは出来ないだろう。しかし、タックル松田さんのパソコン導入について、僕は諸手を挙げて歓迎出来るだろうか?正直に言って、答えはノーだ。

 

何より、僕はタックル松田さんの生原稿に惚れ込んでいたからだ。サンプル原稿に描かれたブラックバスは今でも脳裏に焼き付いている。もちろん、サンプルであることから生原稿のコピーだが、線の一本一本の生々しさはデジタルで表現出来ないだろう。普段の風俗マンガを遥かに超える熱量だったのだ。

 

続く