第60回_風俗雑誌とマンガ家_その4

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タックル松田さんから届いた原稿を早速チェックする僕。埼玉のデリヘル情報も盛り込まれていることから指定した内容通りの出来栄えだ。しかし、少し注文をつけるのであれば絵柄の部分だろう。タックル松田さんの絵柄は少々古いのだ。年配の男性をターゲットにした風俗雑誌であれば問題無いが、僕の扱う風俗雑誌のターゲットは30代。今回は仕方が無いとして、次回に依頼する機会があったら絵柄について注文をつけなければならないだろう。

 

今回はタックル松田さんに仕事を依頼したものの、僕はタックル松田さんのことを満足に知らない。そこで、タックル松田さんと仕事をしたことのある編集スタッフに訊いてみたのだ。

 

「タックル松田さんから原稿届いたんだけどさ、元々はどんなマンガ家なの?」

 

「いや、俺もあんまり知らないんだよね。タックル松田さん本人が自分の原稿を送ってきてさ、それで仕事を依頼したんだよ」

 

「そっか、自分から営業掛けてきたんだ」

 

編集部には仕事を求めるマンガ家やカメラマンなどのフリーランサーによる営業は多い。僕の編集部は風俗雑誌であることから、カメラマンはデリヘル嬢やソープ嬢の名鑑写真、AV女優のグラビアなどをサンプルとして送ってくる。マンガ家であれば過去の風俗マンガや女性のイラストだ。タックル松田さんのことを知りたくなった僕は、過去の作品をチェックすることにした。

 

「タックル松田さんが営業で送ってきたサンプルってどっかにあるかな?」

 

「多分、倉庫の棚にあると思うよ」

 

当時の僕が勤務していた編集部の社長は非常にマメなタイプで、倉庫と呼ばれる専用の部屋に過去の資料などが並べられていたのだ。倉庫にはマンガ関係専用の資料が並べられた棚があり、そちらを見るとタックル松田さんの資料がファイリングされていた。

 

資料をパラパラとめくるとタックル松田さんのサンプルがファイリングされており、その中には他誌に掲載された店舗型ヘルスの体験マンガがあった。これは数年前に描かれたものでそれほど古い作品では無いが、どうしてもひと昔前の絵柄が気になってしまう。そのほかに裸や水着姿の女性のイラストもあるが、こちらもひと昔前のタッチだ。

 

さらにファイルをめくると突然まったく別ジャンルのイラストが飛び込んできた。それはA4サイズいっぱいに描かれた魚だ。おそらくブラックバスだろう。限界までしなった釣り竿とリールを巻き上げる青年。そして、ルアーに食らいついたブラックバス。太陽の光を浴びたウロコは一枚一枚が虹色に輝き、“釣られまい”と暴れる姿からは水しぶきが飛んでくるようだ。そして、ブラックバスの口元の食い込んだルアー、釣り竿、リール、すべてが緻密に描き込まれている。

 

もちろん、原画ではなくコピーだが、僕はそのブラックバスのイラスト一枚でタックル松田さんのファンになってしまったのだ。

 

続く