【第4回】リエちゃんの左手 その1

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「それじゃあ横向きに座って、上半身だけこちらに向けてください」

カメラを抱えた僕は目の前の女性に指示を出す。

ウェブの台頭によって出版業界が右肩下がりになっている。

これは僕が扱っている風俗雑誌も同様のことで、発行部数が低下してお金の無い雑誌は真っ先に外注費削減を行う。

具体的には僕のようなフリーランスのライターやカメラマンを使わず、 編集部の人間でそれらの仕事をするのだ。

しかし、外注を完全にゼロにすることは難しいため、写真も撮れるライターが重宝されるのだ。

先輩ライターの大半は写真を撮ることができる。

それを知っていた僕は、友だちのカメラマンから最低限の写真の技術を教えてもらっていた。

そのお陰で出版不況でも仕事を得ることができたのだ。

友だちのカメラマンが

「手っ取り早くエロい写真を撮るのであれば、身体を捻らせること」

というアドバイスをしてくれたため、僕は撮影になると必ず上半身を捻ったポーズをお願いしている。

一般的な撮影の流れは名刺を渡して挨拶することから始まる。

そして掲載される風俗雑誌のバックナンバーを見せて、今回のグラビアのコンセプトを説明するのだ。

撮影や取材に慣れた女の子であれば要領を掴んでいるためサクサクと進むが、

初めての女の子はどうしても緊張した表情になってしまう。

プロのカメラマンであれば技術でカバーできるのだろうが、僕の本業はライターだ。そこは盛り上げるしか無い。

事前に用意しておいたお菓子やジュースをテーブルに並べ、タバコを吸う女の子にはタバコを勧める。

さらにバックナンバーのグラビアページを広げ、美しく誌面に載ることをアピールする。

これでようやく女の子はリラックスしてくれるのだ。

その日の撮影はラブホテルにてマンツーマンで行われた。

相手はリエちゃんという女の子で、初めての撮影とのこと。

20代半ばで少しムチムチとした体型をしている。黒髪のボブカットとクリクリとした大きな目が印象的だ。

そこで僕はいつものようにお菓子やジュースを用意して撮影に臨んだ。

最初は緊張していたものの、次第にリエちゃんの表情がいきいきとしてくる。

そのタイミングで僕は撮影を始めることにした。

全裸になってもらうのがベストなのだが、本人の希望により下着姿での撮影。

まずはイスに座ったポーズを撮影したが、どうもポーズがぎこちない。

不自然なポーズばかりなのだ。

きっと初めての撮影で緊張しているのだろう。

そこで僕はお得意のポーズを提案した。身体を捻って四つん這いになるポーズだ。

すると突然リエちゃんの表情が曇る。

「私、左手が見えるポーズはNGなんです…」

これでポーズの不自然さの理由が分かった。常に左手を隠すポーズばかりなのだ。

「これはタトゥーだな」僕は直感した。

若気の至りで入れてしまったタトゥーを見せたがらないケースは多い。

「ひょっとしたらタトゥーですか?」

「いや…」

リエちゃんは恐る恐る左手を出した。そこには手首から肩の付け根まで数十本の線が並んでいる。

リストカット跡だ。

このような跡は見慣れているが、これほどの数は初めてのこと。

浅い跡もあれば、深く切ったであろう色素沈着した跡もある。

リストカット跡に交じって根性焼きもいくつか見える。

そして、まだキズの塞がっていないリストカット跡が目に入った。

恐らく撮影の数時間前にできたものだろう。

続く