【第3回】池袋ロサ会館裏の立ちんぼ その2(最終回)

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「お姉さんの国はどこ?」

「ワタシ?タイワン」

全国屈指の立ちんぼ激戦区である池袋。

中には見とれてしまうようなアジアンビューティーも少なくない。お世辞にもキレイとは言えない彼女では、お客を捕まえることは難しいだろう。

正直に言って最初は冷やかしのつもりだった。

しかし、立ち止まって顔を見るとどこか人懐っこい笑顔をしている。

仕事に追われていたこともあって、仕事以外の会話はしばらくしていない。

僕はこの笑顔と話しがしてみたくなったのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

日本語は片言だったが意思の疎通に問題は無い。

しかし、彼女は僕のことをお客さんとしか見ていないようで、いかに自分がテクニックを持っているか、いかに満足させられるか、そんなことばかりだ。

このままではキリがない。

僕はタバコに火を点けた。

深く煙を吸い込んでゆっくりと吐き出し、彼女にタバコを勧めてみる。

「ノー」

クイッと飲み物を飲む仕草をしてみる。

「イエス!」

分かりやすいリアクション。

僕と彼女は近くのコンビニへ向かった。

僕は普段ひとりで飲む習慣が無いので、少し迷った後に350mlのビールを取り出して彼女の方を振り向くと、彼女はすでに500mlのビールを持っていた。

彼女は人懐っこい笑顔を浮かべている。

僕も思わず笑顔になり、350mlを戻して500mlを取り出した。

会計を済ませた僕たちはコンビニ横の階段に腰を下ろし、汗をかいた缶ビールで乾杯。

彼女は大事そうに両手で缶を持つと、僕に向かって何度も何度もお辞儀をしたことを覚えている。

そして彼女は美味しそうにビールを飲んだ。

「チンタオビールと日本のビールどっちが美味しい?」

「ニホンノビール!」

彼女は人懐っこい笑顔を浮かべると、再び美味しそうにビールを飲んだ。

アルコールで饒舌になった彼女は台湾に子供がいることや、家を買うためにお金を貯めていることなど、色々な話をしてくれた。

どこまで本当の話しか分からないが、そのときの僕には全てが真実に聞こえたのだ。

「ダカラ、オカネガヒツヨウ。シゴトガンバルヨ」

彼女はそう言うと、アルコールで赤くなった顔で人懐っこく笑った。

それを見て僕も笑顔になる。

彼女のペースにつられてガブ飲みをしてしまい一気に酔いが回ってしまった僕は、彼女に別れを告げるとカプセルホテルへ向かう。

少し歩いてから振り返ると、彼女は両手を振って笑顔で何度も何度もお辞儀をしていた。

それからしばらく仕事は穏やかだったが、1ヶ月もすると仕事が忙しくなった僕は再びカプセルホテル暮らしへ。

家を買うお金が貯まったのだろうか?

子供に会いたくなったのだろうか?

それとも警察に摘発されたのだろうか?

彼女と会うことは二度と無かった。

立ちんぼとは春を売る仕事。

春を愛する人は心清き人だそうだ。

春を売る人はどんな人なのだろう。

池袋で会った春を売る人は笑顔をくれる人だった。